ピロリ菌除菌成功後のフォローアップ
胃がんのフォロー
ロリ菌の持続感染が胃がんの発生に重要な危険因子であることが明らかになった現在、除菌療法による胃がん発生の予防が期待されています。
わが国の胃がん抑制にとって、ピロリ菌の除菌とその後の胃がんスクリーニングが重要な役割を担います。
2008年の研究では、多くの施設で行った臨床試験により、「早期胃がんに対する胃カメラ(内視鏡)的治療(EMR)後の患者において除菌グループは非除菌グループに比較して、胃がんのリスクが約3分の1に抑制されたこと」が報告されました。
除菌により胃がんの予防効果が認められていますが、長期経過において一定の確率で除菌後に胃がんが発見される方も少なくありません。
除菌後胃がんの早期発見のためにも年1回の胃カメラ(内視鏡)によるフォローアップが必要です。
ピロリ菌除菌による胃がん抑制には、「慢性活動性炎症の改善」とともに「胃粘膜萎縮および腸上皮化生」の改善が必要と考えられています。
除菌後10年以上の経過観察で発見された胃がんの特徴を多くの施設で検討した結果、
1.その胃がんは男性に多く
2.非噴門部に発生する潰瘍を伴わない陥凹型の分化型早期胃がんであり
3.その背景胃粘膜は除菌前に強い胃体部萎縮を認めるケースであった
と報告されました。
ピロリ菌除菌後の患者さん、特に胃潰瘍、早期胃がん・胃腺腫のEMR後胃では、除菌成功後においても胃がん発生のリスクは残存します。
繰り返しになりますが、除菌後も年1回の胃カメラ(内視鏡)検査による経過観察を行うことが重要です。
除菌後10年以上の経過観察にて発見された胃がんの報告もあることから、現時点では除菌後の胃カメラ(内視鏡)によるフォローアップをいつまで継続するかについては結論が出ていないため、可能な限りフォローアップを続けています。
除菌後のフォローアップについては、主に次の3つのポイントに注意しています。
1.除菌後の胃がん:除菌に成功しても胃がんのリスクは残存しているため、特に胃体部萎縮の強い症例(胃潰瘍、早期胃がん、胃腺腫のEMR後胃)は除菌後の胃がん発生に注意して年に1回の定期的な胃カメラ(内視鏡)検査を行う必要があります。
2.除菌後の潰瘍再発:除菌により胃・十二指腸潰瘍の再発率は抑制されますが、時に潰瘍再発をきたす症例、特に非ステロイド抗炎症薬の服用がそのリスクとなることがあります。除菌後も自覚症状に注意して胃カメラ(内視鏡)検査の適応を考えています。
3.除菌後の逆流性食道炎発生:除菌後に逆流性食道炎をきたす症例があります。その多くは軽症ですが、高齢者で高度の萎縮性胃炎と食道裂孔ヘルニアを合併した症例では時に重症の逆流性食道炎をきたすこともあるため注意しています。今後、バレット食道や食道腺がんの増加が心配されていますので、除菌後も食道・胃接合部をよく観察するようにしています。
除菌後胃がんの危険因子と注意点
ピロリ菌の持続感染が胃がんの発生に重要な危険因子であることが明らかになった現在、除菌療法による胃がん発生の予防が期待されています。
専門的な話になりますが、ピロリ菌陽性胃がんと比較した除菌後胃がんの特徴として、
1.患者背景に大差はない
2.前庭部に多い傾向
3.除菌により平坦隆起型は減高し、同定困難になる場合がある
4.胃型形質が多く、腸型形質抑制の可能性がある
5.表層は異型のない粘膜が覆い、胃カメラ(内視鏡)的に描出困難な場合がある
6.除菌により腫瘍発生、進行速度を遅らせることができる
7.除菌後に進行がんの形態で発見される場合があり、除菌10年以上の経過でも発症を認める
などが挙げられます。
また、除菌後胃がんの危険因子として
1.除菌時に高齢であること
2.男性
3.高度の体部胃炎、萎縮、腸上皮化生を認める
4.胃潰瘍症例
などが挙げられます。
近年は、胃カメラ(内視鏡)で診断される慢性胃炎の意義は、「胃がんの発生母地としてのリスクを評価すること」、除菌成功後にも胃がんが発見されるため、「除菌後を含めたピロリ菌感染の有無を簡便に診断すること」にあります。
除菌が成功した後でも定期的な胃カメラ(内視鏡)を受けることが大切です。
逆流性食道炎のフォロー
正常な胃粘膜にピロリ菌が感染すると、その慢性経過とともに萎縮性胃炎、さらには腸上皮化生粘膜へと惹起され、その結果、胃酸分泌の低下をきたすため、ピロリ菌感染は逆流性食道炎の発生に対しては防御的に働いていることが考えられています。
よって、逆流性食道炎患者のピロリ菌感染率は性別・年齢を一致させた対照群に比較して低いことが報告されています。
一方、除菌後に胃粘膜の炎症に伴い、胃酸分泌が亢進するため、一般的に逆流性食道炎は増加することが知られていますが、長期経過ではその程度は軽症かつ一過性であることが多く、胃酸分泌抑制薬を必要とする症例は少ないと考えられています。
よってガイドラインでは、除菌後に逆流性食道炎が発生することを危惧して、除菌治療を躊躇する必要はないと考えられています。
しかしながら、高齢者で高度の萎縮性胃炎に食道裂孔ヘルニアを合併した症例では、除菌後に重症の逆流性食道炎をきたし、プロトンポンプ阻害剤(PPI)を余儀なくされるケースも時に認められます。また、体部胃炎を有し、食道裂孔ヘルニアを合併する患者さんでは逆流性食道炎の発症リスクが高くなります。
再陽性化のフォローアップ
頻度は低いものの、除菌後の「再陽性化」についても留意する必要があります。
除菌成功後に再びピロリ菌が出現する要因として、ピロリ菌の「再燃」と「再感染」があります。
再陽性化には、「除菌判定時陰性」=「再燃」と、「新たな菌が新規に感染する」=「再感染」があります。
「再燃」とは、除菌後にピロリ菌が残存しているにもかかわらず、菌数の減少により除菌判定時に陰性と判定(偽陰性)され、その後に菌数の増加に伴い再陽性化するものです。
「再感染」とは、除菌後にピロリ菌は完全に排除され、その後、新たな菌に感染することを意味します。
両者の鑑別には除菌前と再出現時のピロリ菌のDNAを比較する必要があります。実際には除菌前のピロリ菌が保存されていないことが多いため、鑑別は困難であると考えられます。
ピロリ菌の再陽性化については次のように考えられています。除菌後1年以内での陽性化症例の多くは、除菌失敗に伴う「再燃」であり、1年以上経過した後に再陽性化した症例のほとんどが「再感染」と分析されています。1年以降の「再感染」は年率0.22%と報告されています。
保険診療との兼ね合いもありますが、除菌成功後の再陽性化は1年未満が主体であるので(すなわち「再燃」であるので)、除菌治療1年後に確認の再検査が望ましいとする報告もあります。
「再感染」の原因やその感染経路については不明ですが、現在、衛生環境のよいわが国においては、一度除菌に成功すれば再感染の心配はほとんどないと考えられます。
それ以降の「再感染」については、定期の胃カメラ(内視鏡)検査時の所見で推測は可能と考えられます。ピロリ菌再陽性化が疑わしい所見がある時は、当然のことながらピロリ菌の感染診断を行います。
その他のフォローアップ
また、除菌が成功すると、食欲が増進して肥満やコレステロールの上昇など、生活習慣病の出現も報告されています。もともと生活習慣病を有している、もしくはリスクのある患者さんでは除菌後の継続的な生活指導を行うことが望ましいと考えられています。