甲状腺疾患について
甲状腺疾患の頻度は意外に高く、ある疫学的な調査では10人に1人は甲状腺疾患を持っていると報告されています。
一般外来を受診する患者さんの中にも約10%の頻度で甲状腺疾患が見つかるというデータもあります。
甲状腺機能亢進症(多くの場合はバセドウ病)、甲状腺機能低下症(多くの場合は橋本病)、甲状腺癌など見逃してはならない甲状腺疾患は70~100人に1人、潜在性甲状腺機能低下症(橋本病の予備軍)まで含めるとその頻度は30~40人に1人となるという報告もあります。
当院では診察の際に甲状腺の触診を行っています。
甲状腺疾患では甲状腺腫を触知しないものは1%以下とされています。
頻度の高い症状は次の通りです。
甲状腺機能亢進症(多くの場合はバセドウ病)
- 暑がり
- 手の震え
- 動悸
- 倦怠感(だるい感じ)
- 食欲亢進
- 体重減少
- 筋力低下
- 頻脈(脈が速い)
- 心房細動
甲状腺機能低下症(多くの場合は橋本病)
- 寒がり
- 浮腫(まぶたや顔や脚などのむくみ)
- 皮膚の乾燥
- 便秘
- 記憶力低下
- 体重増加
- 全身倦怠感(だるい感じ)
- 徐脈(脈が遅い)
ただし、必ずしもこのような典型的症状を認めるとは限りません。
例えば、バセドウ病では訴えが性別と年齢で異なることがあります。
高齢になると、甲状腺機能亢進症(多くの場合はバセドウ病)の症状は明らかでなく、体重減少や食欲不振など悪性疾患や心疾患と間違われやすい症状で受診することがあります。
また、甲状腺機能低下症(多くの場合は橋本病)の患者さんは、様々な症状を訴えてさまざまな診療科を受診します。
下肢の筋力低下、立ちくらみ、膝や手指の関節痛など、甲状腺機能低下症を疑わない症状で受診することがあります。
検査値で甲状腺機能を疑う場合
甲状腺疾患で異常を認める検査値は次の通りです。
- AST
- ALT
- ALP
- LDH
- 総コレステロール
- CK
特に高コレステロール血症(脂質異常症)を認める場合は甲状腺機能低下症(多くの場合は橋本病)を疑います。
他の肝機能異常を認めずにALPの上昇を認めた場合は、甲状腺機能亢進症(多くの場合はバセドウ病)を疑います。
甲状腺機能亢進症(多くの場合はバセドウ病)でも甲状腺機能低下症(多くの場合は橋本病)でも、AST・ALTが高値になる場合があります。一時的に慢性肝炎と診断される場合もあります。
当院には健診や人間ドックで肝機能障害を指摘されために多くの方が受診されますが、その原因を調べるために必ず甲状腺機能検査を行います(FT4とTSHの測定)。
その結果、甲状腺機能亢進症(多くの場合はバセドウ病)や甲状腺機能低下症(多くの場合は橋本病)と診断したケースもあります。
甲状腺機能亢進症(多くの場合はバセドウ病)では、糖の吸収が速いために食後の血糖値が高くなって尿糖が陽性を認めます。
下垂体は甲状腺ホルモン濃度が正常かどうかを感知するセンサーのようなものであり、甲状腺ホルモン(FT3やFT4)が正常範囲であっても、その個人にとって甲状腺ホルモンが不足していればTSH(甲状腺刺激ホルモン)は上昇し、過剰であれば低下します。
当院では、甲状腺機能異常を疑う場合は、まずFT4とTSHを測定します。その後、必要に応じてFT3を測定します。
甲状腺機能亢進症(多くの場合はバセドウ病)の場合
- 亜急性甲状腺炎は甲状腺の痛みや全身性の発熱があるため診断も容易です。
- バセドウ病と無痛性甲状腺炎の鑑別が問題になりますが、当院では鑑別が困難な場合は専門医がいる医療機関に紹介しています。
妊娠、甲状腺ホルモン製剤の服用、発熱、前頸部の疼痛の有無について問診して、甲状腺超音波検査(甲状腺エコー)を行います。
抗TSH受容体抗体(TRAb)を測定して陽性であった場合は、バセドウ病と診断します。
甲状腺機能低下症の場合、多くの場合は橋本病か萎縮性甲状腺炎によるものです。
甲状腺が腫れていて、抗甲状腺抗体(抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が陽性であれば橋本病と診断します。
甲状腺超音波検査(甲状腺エコー)を行って、甲状腺が萎縮していれば萎縮性甲状腺炎と診断します。