まず、覚えていただきたいことは、コレステロールは人間の体内でエネルギー源として燃焼させることができない、という事実です。
人間の体内では、コレステロールの環状構造は水と炭酸ガスに分解することができません。
グルコースや脂肪酸のようにエネルギーとして燃焼させることもできないため、ステロイドホルモンの合成材料になる場合を除いては、余ったコレステロールはコレステロール逆転送系によって、HDLコレステロールを介して肝臓に運ばれます。
そして、胆汁酸に合成されて胆汁中に排泄されます。
このため、体内におけるコレステロールの動きとしては
(1) 生体膜の構成成分
(2) ステロイドホルモンやビタミンDの合成材料
(3) 胆汁酸に合成されて排泄
この3つの処理方法しかありません。
すなわち、コレステロールを体外に排泄する手段は、胆汁のみということになります。
胆汁酸は摂取した脂質を乳化して、その消化・吸収を助ける作用があります。
脂溶性ビタミンや必須脂肪酸の吸収には胆汁酸が重要な役割を果たしています。
人間は1日に300-600mg程度の胆汁酸が肝臓で合成されています。
体内の胆汁酸のプールは3-5g程度とされていますが、実際には肝臓から胆汁酸へ1日に18-35g程度の胆汁酸が分泌されており、生体内での合成量では必要量を満たすことができません。
この不足分を補うために、小腸から肝臓へ1日6-12回程度、分泌された胆汁酸を運び戻して再利用する腸肝循環と呼ばれるシステムがあります。
分泌された胆汁酸の95%以上は小腸から吸収されて肝臓に戻って再利用されるため、体外に排泄される胆汁酸の量は肝臓から分泌された量の数%(500mg程度)と少なく、排泄分を肝臓で合成していることになります。
腸肝循環されなかった胆汁酸は、大腸内で腸内細菌によって分解され、最終的に便中に排泄されますが、これがコレステロールの唯一の体外排泄機構となっています。
このように、コレステロールは生体内でエネルギー源として燃焼されず、体外排泄機構も乏しいため生体内で蓄積されていきます。